東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)47号 判決
原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
原告は、本件発明にかかる放電灯はその明細書の記載に照らし、明らかに露光用放電灯に限られる、と主張する。
しかし、当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載は、本件発明の対象を単に「放電灯」としており、「露光用放電灯」には限定していない。
そして、成立に争いのない甲第二号証(本件発明の特許公報)によれば、本件発明は、その明細書の詳細な説明において、「発光管の内部に水銀及び希ガスと共にガリウムとヨウ素又は臭素を封入してなる放電灯の改良に関するものであり、特に複写用感光紙、製版用感光剤等の露光用光源に適した放電灯の改良に関するものである。」と説明されていることが認められ、これによれば、本件発明が結局「放電灯」の改良に関するものであることが明らかである。
もつとも、前記明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、複写用感光紙に使用される感光剤は、種類によつて若干の差はあるが、一般に三八〇ナノメートルないし四二〇ナノメートルの波長域に最大感度をもつていることにかんがみ、本件発明の放電灯がガリウムのスペクトルである四〇三ナノメートル及び四一七ナノメートルの波長の光を利用することにより、複写用感光紙等の露光用光源に適したものであることが窺える。
しかし、前掲甲第二号証によれば、本件発明は、結局、発光管に封入するガリウムのヨウ素又は臭素に対する総原子数の比を特許請求の範囲に記載された〇・五ないし三の範囲に選定することによつて、始動電圧及び再点弧電圧の低下を計るなど特性の安定した放電灯を得ることにその基本的なねらいがあるものとみることができるのであつて、これを一般照明用として使用することが可能であり、露光用光源として用いることは単にその一適用例を示したにすぎないものということができる。
右のとおりである以上、本件発明にかかる放電灯は露光用放電灯に限られるという原告の主張は失当であり、本件発明の要旨は特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認定したうえ、本件発明は引用例に記載されたものと同一であるとした審決に誤りはない。
〔編註〕 本件における特許請求の範囲および審決理由の要点は左のとおりである。
本件発明の特許請求の範囲
発光管の内部に、水銀及び希ガスと共にガリウムとヨウ素又は臭素を封入してなる放電灯において、上記ガリウムとヨウ素又は臭素は、ガリウムのヨウ素又は臭素に対する総原子数の比が〇・五ないし三となる量で封入してふることを特徴とする放電灯。
本件審決の理由の要点
本件発明の要旨は、前項記載の特許請求の範囲のとおりである。 これに対し、本件発明の出願前に日本国内において頒布された刊行物である「JOURNAL of the OPTICAL SOCIETY of AMERICA 一九六四年四月号」第五三四頁及び第五三八頁(以下、「引用例」という。)には、「水銀蒸気―金属沃化物アークランプの特性」という表題で、Hg-GaI2ランプ及びHg-GaIランプについての記載がある。
しかして、これらのランプは、ガリウムのヨウ素に対する総原子数の比がそれぞれ〇・五及び一であるから、本件発明の要件を備えていることが明らかである。
したがつて、本件発明は、その出願前に日本国内に頒布された引用例に記載されたものであつて、特許法第二九条第一項第三号の規定に違反して特許されたものであるから、同法第一二三条第一項の規定によりその特許を無効とすべきものである。